ロンドンの「Flameless(フレームレス)」 という没入型デジタルアート体験施設を訪れました。2025年7月には日本テレビ「イッテQ」のロンドン企画で出川さんも訪れています。
このギャラリーでは、本物の絵画や彫刻を額に入れて壁に展示するのではなく、著名なアーティストの作品を360度の投影映像として再現し、音楽やモーションセンサー技術と組み合わせて「作品の中に入り込む」ような体験を提供。絵画が好きな人や興味がある人なら一度は「この絵画が動いたら面白いのに」とか「この絵画の世界に入ってみたい」と思ったことがあるはずです。それがかなってしまう面白さが Flameless にはあります。
施設には4つのテーマの部屋があり(Beyond Reality、Colour in Motion、The World Around Us、The Art of Abstraction)、それぞれ異なる映像とインタラクティブ技術を使用しています。ユニークな体験ができるため、予備知識なしに訪れても楽しめると思いますが、事前にそれらの絵画を知っていれば「あの絵画が」といった感動も味わえるでしょう。
ロンドン「Flameless」
最寄り駅は「マーブル・アーチ駅(Marble Arch)」。
施設のすぐ近くには、ロンドンのランドマークとして知られるマーブル・アーチ(Marble Arch)と、タイバーン絞首台跡(Tyburn Gallows)があります。
マーブル・アーチは、1827年にバッキンガム宮殿の公式玄関として建設されたもので、ナポレオン戦争の勝利を記念し、ロンドンの都市美化を目的として造られました。一方、タイバーン絞首台は1196年から1783年まで公開処刑場として使用されており、ロンドンの歴史における暗い一面を今に伝えています(が、これは意識しない限り通り過ぎてしまうと思います)。


予約したタイムスロットの時間よりも早く着いてしまったので、ダメ元でスタッフに尋ねると「どうぞ入って」とのことでありがたく入場。ギャラリーは地下にあり、階下へ降りるエスカレーターやロビーも雰囲気がありました。


Beyond Reality
印象的だったものを抜粋してみます。
この部屋ではシュルレアリスムや夢のような世界を探求する作品が展示されています。360度の映像だけでなく、BGMや、絵画の中で起こっているだろう音も加わっており臨場感を楽しめます。
サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)の「記憶の固執(The Persistence of Memory)」:数個の時計が現れたかと思うと、部屋全体、床にまで時計が広がっていきました。酔わないか少し心配になりました笑。(画像クリックで拡大します)


サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)の「As You Like It」:象があちこち歩き回っています。近いものはすぐ近くにいて不思議な感覚です。

グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)の「命の樹(The Tree of Life)」:黄金の木がにょきにょきと現れ、美しい枝が部屋全体を覆います。「接吻」の一部も現れ、キラキラした映像に観ている人たちの目も輝いていたことでしょう笑。(画像クリックで拡大します)



エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch)の「叫び(The Scream)」:叫んでいる人が立体的でこちらへ迫ってくるようです。背景の赤い空がマグマのように床にまで伸びてきます。


アンリ・ルソー(Henri Rousseau)の「夢(The Dream)」:カラフルな森の中に入り込んだようで楽しい気分を味わえます。

マックス・エルンスト(Max Ernst)の「The Fireside Angel」:これもだんだんこちらへ近づいてきますが、カラフルなので見入ってしまいます。(画像クリックで拡大します)


Colour in Motion
印象派やポスト印象派を中心に色彩の動きを体感する作品が展示されています。
床にはおびただしいカラフルな模様がうごめいており、その中に足を踏み入れると模様が反応して動きます。部屋にいた子供たちは大喜びでその模様を追いかけていました。
このカラフルな模様は絵画の色合いを用いているようで、それらが絵画を形成したり、暗闇に広がったり、明るく散ったりと幻想的でした。





The World Around Us
自然や都市の風景をテーマにした作品が展示されており、2024年には5つの新作が追加されたとのこと。以下の画像はほんの抜粋ですが、このほかにもさまざまな絵画が登場します。
葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」:日本調の音楽に乗せて低音の効いた重厚な響きとともに波が押し寄せてきます。


最も気に入っている作品です。レンブラントの絵画に、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」がBGMとして使われていた構成。嵐の音楽や神秘的な雰囲気が非常に合っていると思います。海は大荒れで音楽に合わせてところどころで雷が鳴り、波の迫力も見事です!

フィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜」と「アーモンドの花」:どちらの青もそれぞれ異なる美しさです。


ジョン・アトキンソン・グリムショーの「Reflections on the Thames, Westminster」「Nightfall Down the Thames」:19世紀のロンドンのテムズ川沿いの夜景が描かれています。
ウェストミンスター橋と周辺の街灯が水面に映り霧がかった雰囲気の中、月光と人工光の幻想的な光景が広がります。通りではバイオリンを弾く人の音色が響き、背後には馬の蹄の音、遠くからは女性の叫び声が聞こえ、当時のロンドンの雰囲気を想像させられます。

部屋のベンチに座っている人たちは、いつのまにかイタリア・ヴェネツィアの桟橋のベンチに腰かけています笑。

J.M.W.ターナーの「Keelmen Heaving in Coals by Moonlight」:夜の港(タイン川)の川面に映る光と影、大気の効果が特徴。工業化時代の労働と自然の美しさが融合した作品。ターナーの世界に入り込めるのはとても嬉しい体験です。

ポンペイの秘儀荘(Villa dei Misteri)のフレスコ画では、給仕の女性が秘儀の進行を目の当たりにしながら室内を一周していくのが面白いです。その後、地響きとともにジョセフ・ライト・オブ・ダービーの噴火の絵画が現れて非常に迫力があります。
実際にはヴェスヴィオ火山の噴火を描いた作品で時代的には関係がないものの(フレスコ画:紀元前1世紀、ライトの絵画:18世紀)、テーマや視覚的インパクトをドラマチックに組み合わせた演出に。部屋中に響き渡る地響きが迫力がありました。

The Art of Abstraction
部屋は映像の迷路のような構造になっており、見る角度によって多層的で半透明なアート体験ができます。抽象画の動きとジャズのリズムが一体となった没入感も楽しめます。
ワシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky)、ピエト・モンドリアン(Piet Mondrian)、ロベール・ドローネー(Robert Delaunay)、カジミール・マレーヴィチ(Kazimir Malevich)、パウル・クレー(Paul Klee)などの作品が含まれています。
(ピエト・モンドリアンの「大きな赤い平面、黄、黒、灰、青のコンポジション(Composition with Large Red Plane, Yellow, Black, Grey and Blue)」はテートモダンで見ることができます。)




おわりに
印象的だったのは「Beyond Reality」と「The World Around Us」です。レンブラント、ターナー、グリムショーの世界がもっと多く展開されていれば、さらによかったと感じました(個人的な好みですが)。イギリスの歴史的な絵画だけの部屋があっても面白いかと思います。
前述のとおり、絵画が好きな人や興味がある人であれば「この絵画が動いたら面白いのに」「この絵画の世界に入ってみたい」と思ったことがあるはずなので、このような体験型の展示はとても楽しいものだし、これをきっかけに絵画に興味を持つ人もいるかもしれません。
絵画は無名のものや新しいものを含めて無数に存在しており、それらをもとにした体験型・没入型のアイデアも無限に広がると思います。今後さらに発展していってほしいと感じました。